2025.09.24 トピックス, AI

未来の医師とAI診断

米国の最新AIカルテと日本の医療DXの可能性

 
 

次なるITフロンティア=医療

日本社会は、医療とAIの関係を次のステージに押し上げざるを得ない局面に立っています。
ここで問いたいのは「AIカルテ」や「診断補助AI」が技術的に可能かどうかではなく、IT企業が医療産業という巨大市場でどうポジションを築くべきかということです。

まだ医療領域に参画していないIT企業は、「次なるフロンティア」である、医療AI/DX市場をどう見るべきでしょうか?

 


1.高齢化と“複数疾患患者”という現実

日本の高齢化率はすでに 30%超。2060年には40%に達すると予測されています。
そして高齢者が使う医科診療医療費は全体の 62.8%。つまり医療費の大部分が高齢者の慢性疾患に費やされているのです。

しかも高齢患者は、糖尿病+心疾患+関節症など複数の疾患を抱えるのが当たり前。単一臓器だけを診るのでは不十分で、総合的な判断が不可欠になっています。これはビジネス的に言えば「市場の痛点」であり、新規参入企業が付加価値を提供できる領域です。


2.日本の医師制度が抱える構造的課題

 

日本の医師の多くは臓器別の専門医です。

 

これに対局的な位置に存在する専門医が、海外では「プライマリケアドクター」「ジェネラルケアドクター」と呼ばれる、全身を診る「総合診療医」です。最近の医学生には大変人気があり注目されています。類似の診療科で、家庭医療専門医も存在しますが、全国でわずか 600人台(全医師の0.2〜0.3%程度)。
 

やはり、日本では臓器別専門医制が主流で、消化器・呼吸器・循環器などの専門医は数万人規模に上り、何かに専門特化することが「医師のアイデンティティ」というキャリア感は文化として深く根付いています。

一方で、例えば、イギリスでは家庭医療専門医は、一次医療(町の診療所)を担う中核として古くから存在し、そこを通してのみ中核病院にアクセスが可能であるように、家庭医療が診療所の中心的存在です。その他欧州・米国でも総合診療医は古くから、初期段階の医療アセスメントとトリアージの中心的存在でした。

つまり、本来プライマリケアを担うジェネラルドクターが極端に少ない。しかも医師自体の高齢化も進んでおり、開業医の世代交代も遅れているのです。

 



3.AIとドクターの相性はなぜ良いのか

AI診断補助は、現在の日本国内に数多く存在する、複数の質問に答えた結果、”〇〇病の可能性があります。呼吸器内科を受診しましょう。”のような「占い」に近い問診システムではなく、医師の臨床判断を拡張するツールとして設計されています。

  • 鑑別診断候補を瞬時に列挙し、見落としを防ぐ。
  •  
  • ガイドラインに基づいた検査・処方の流れを提示し、医師の判断を標準化。
  •  
  • 診療録の作成や文書化の負担を軽減し、医師が患者と向き合う時間を増やす。

これは単なる技術支援ではなく、**人材不足を補いながら医療の質を一定水準に保つ“産業的役割”**を果たします。


4.米国で進む“実装レベル”のAI診断補助

米国ではすでに「研究」から「運用」へ進んでいるプロジェクトがあります。代表的な企業と機能を簡単に整理しましょう。

  • Isabel Healthcare(Isabel DDx Companion)
    症状入力から鑑別診断を提示。Epicなどの電子カルテに統合可能で、臨床現場で実用化済み。
  •  
  • VisualDx
    皮膚疾患・薬疹などに強み。画像+症状から診断補助を行い、主要病院で導入済み。
  •  
  • EvidenceCare
    ガイドラインに基づく臨床パスをEHR画面に組み込み、検査・処方オーダーを自動誘導。ROI(投資対効果)を明確に提示し、マーケティング戦略でも強い。
  •  
  • AgileMD
    臨床パスをEHRに統合し、医師の意思決定をナビゲーション。一次診療の効率化効果が論文で報告済み。

当然ですが、共通するのは「AIが診断を下す」のではなく、ガイドラインに基づき候補を示し、医師の判断をサポートする点です。医師は、あらゆる診療科目・疾患の治療ガイドラインを頭に入れることなどできませんが、AIにはそれができる。一方で、AIは触診・視診など自分自身でできることがないため、プロンプトや、使い手(医師)のコミュニケーションに課題があれば、AIは正しい診断ができない。各国の医療法・医師法などの法令、何よりも、「あくまで責任主体は医師」である必要があります。


課題は、責任の所在や保険償還モデル、データ標準化。つまり、テクノロジーよりも制度と市場の受け皿が鍵になっています。



5.日本の医療市場は“ITフロンティア”

ここからがマーケターにとって重要な視点です。日本ではまだ、米国型の実装レベルAI診断補助はほぼ存在していません。市場は未成熟、だからこそ参入余地が大きいのです。

  • 市場機会
    高齢化率世界一、複数疾患患者の爆発的増加、そしてジェネラル医不足。

  • 差別化の余地
    占いレベルの問診AIが多い現状で、ガイドライン準拠・医師責任設計済みの診断補助を打ち出せば一気にポジションを取れる。

  • 参入戦略
    最初は中小クリニックや地方自治体病院をターゲットに、試験導入でKPI(診断精度改善・診療時間短縮・医師満足度向上)を実証。その後、大病院や保険者を巻き込んだスケール戦略に展開できる。

  • リスク管理
    規制・責任・データ標準化という壁はあるが、ここを“制度設計と一体で解決する”企業は、単なるITベンダーではなく医療DXの基盤プレイヤーになれる。


結びに:マーケティング視点でのAI医療DX

AI診断補助やAIカルテは、技術的にはすでに「実装できる」段階にあります。残るハードルは、医療制度、データ連携、そして市場の信頼性。

マーケティング担当者に必要なのは「どの層を最初に攻略するか」という戦略視点です。たとえば、

  • 高齢化率の高い地方都市の診療所
  •  
  • 医師不足に直面する自治体病院
  •  
  • 在宅医療や訪問診療を拡大する地域ネットワーク
 

こうした現場に的を絞れば、社会課題解決とビジネス拡大が両立する事業モデルを構築できます。


医療は巨大で複雑な産業ですが、日本においては間違いなくAI×医療DXが次のフロンティア。いまこそ、IT企業の戦略人材・マーケティング人材がその可能性を見極めるタイミングです。

お問い合わせ
日本ヘルスケアソリューションズ―JHS