200床未満の小規模病院においては救急受入の困難性や、看護師等職員の病床コントロール能力、地域連携戦略、オペ室稼働状況等に多くの課題を抱えているケースが少なくありません。これら解決は、長らく固着した組織文化の破壊をしなくてはならないため、既存の院長や役員が解決することは組織内の反対があり困難を極めます。そこで、第三者の立場から、コンサルタント経営専門家として組織内部に発信することで、組織文化の変化を促すことができます。
昨今、医療機関同士、特に高齢化著しい小規模クリニックや、総量規制によって病床権利を抱える病院同士のM&A・合併が、その激しさを増しています。DPCや緊急対応への厳しい診療報酬改定に耐えきれない医療機関は、回復期リハ病床や介護治療院への転換を余儀なくされる、もしくは赤字が膨らみ、身売りすることはごく当たり前なものとなっています。
しかし、そこには「継承してもらえる」幸せな未来だけが待っているわけではありません。豊富な資金力を元にファンドや大手医療法人が買収するものの、十分なDDやPMI設計(買収統合後、二つの組織が一つなっていくプロセスやその具体的な計画)がままならぬまま、買い手は購入を急ぎ、赤字を垂れ流す売り手は売却を急ぎがちです。その結果、期待したほどの相乗効果が生まれず、また予期せぬ組織文化の大幅変更による旧職員の大量離職が発生するなど、大きな問題も起きています。旧理事長は、譲渡後も組織安定化までは在籍することを条件にされる、またはアーンアウト条項(一定の売上条件を達成する等)を詳しく知らないまま合意し、後々トラブルに見舞われることもしばしば見られます。
現在の日本のM&Aは、まだまだ「買ってから考える」「合併してから話し合って決めていこう」という、十分な分析や戦略、KPIがないままMOU(売買契約)が先を行きがちです。もちろん、合併してみて、トライアルで進めることが出来ればよいですが、そう簡単には行きません。誰がボードメンバーなのか、誰が組織をグリップするのか、誰の反乱を抑えるべきなのか?異なる文化が融合するためにはどのような人事制度設計が望ましいのか?得意分野が異なる医療機関が合併することで、新たにどのような患者を引き受けられるようになるのか?又は、カニバリゼーションや、重複する無駄な手術室が生まれた場合どう処理するのか?異なるビジョンを持っていた場合、どのようにして全職員に新しい「旗」を掲げて導くのか。これをMOUの前に予め調査・分析・戦略立て、具体的なKPIに落とし込むことで、合併後の想定外な事件を回避するだけでなく、”設計された”相乗効果を生み出すことに繋がります。
米国をはじめとするM&A先進国ではこの考え方は、ごく当然であり、これをバリューアップDDと言います。
コアコンピタンスを活用したシナジー効果の想定ももちろん大事です。しかし、ヘルスケア産業同士の合併で最も重要なことは、ガバナンスです。ヘルスケア産業は規制産業であり、生命を取り扱う事業だからこそ、異業種が買い手に回った場合、このカバナンスを深く理解しないまま買収し、深刻なレピュテーションリスクやインシデントリスクを孕んだまま、保険医療ビジネスという魅力的な市場に期待を膨らませ、買収に突き進むことがしばしばあります。その結果、不正な保険算定が横行したり、GLP/GCP/GMP/GSP/GPSP/又は医療倫理を深く理解しないまま事業が展開されることがあります。もちろん、買い手側は悪意の下にこれを行っているわけではなく、規制産業である医療の特殊性や厳しさを深く理解しないまま突き進んだ結果として、予期せずトラブルが発生します。しかし実は、ここにガバナンスや監督の目があれば、無駄なM&Aを回避することはもちろんのこと、最終消費者である患者や地域社会への損害を回避することができた「予期できたトラブル」が実は大半なのです。
もちろん、医療産業&非医療産業の合併においてガバナンスは重要ですが、さらにガバナンスの重要性が高まるシーンは、非医療機関(株式会社やファンド)が医療機関を買収するシーンです。原則、医療法人は”自然人たる社員”しか最高意思決定機関である社員総会の議決権を持つことはできませんが、実際のM&A市場は、”自然人たる身内”を据え置き、企業が医療法人を実質買収することの方が多いことが現状です。技術のプロであり、経営の素人である理事長が失敗した医療経営を、民間の力で蘇らせることによって、再び地域医療に平和と安寧をもたらす成功事例も数多く存在しますが、医療機関をコントロール・マネジメントすることは実際には容易ではありません。医療現場には、医師をトップとする絶対的なヒエラルキーが存在し、その下に看護師、さらに下に医療事務と言った関係性が非常に根強くあり、また民間企業へのアレルギーに近い拒絶反応が実際に存在しています。これをうまく理解した上で企業統治のルール設計を「買収前に」行わなくては、買収後も理事長に暴走され、”理事長のお伺いを立てなくては必要な意思決定が何一つ進めることができない”というトラブルは日常茶飯事に発生します。よって「買収後に決めていきましょう」ではうまく進むはずもなく、確実に理事長と協力体制を築き、また暴走を抑止する策を事前に設計する必要があります。また、医療機関で働く人々には、プロとしてのこだわりや情熱があることを忘れてはいけません。たとえ民間企業がオーナーになろうとも、医療機関のビジョンやミッションを尊重し、社会インフラとしての機能を支援し、またそこで働く従業員の満足度ややりがい・プロとしてのこだわりにまで焦点を当てた人事制度の設計や評価、育成に責任をもつ必要があるのです。これらの「歯車」が嚙み合って初めて、民間企業が持つプロダクトやサービスの強みと、医療現場の強みに相乗効果が生まれるのです。
これを知り尽くした当社では、M&Aを実施する前段階から「バリューアップDD」「PMIにおけるガバナンス設計」を行い、さらに発展的に「医療現場を活用した次世代技術やAI/DXの実証実験」などの支援が可能です。
