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Case Study

医療法人クリニック

クライアント

在宅医療専門クリニック

プロジェクト種別

医療機関マーケティング・戦略・プロモーション

プロジェクト概要

■ 地域評判は悪くないはず。新患が来ない...
在宅専門クリニックを開業して2年目。開業当初は、地域に新しく在宅専門クリニックが開設される話題性から新患の紹介が相次いだが、その後、時間が経過すると共に紹介数は減少の一途を辿り、当初の3分の1にまで新患数は落ち込んでいた。しかも、患者の平均要介護度は低下し、単価の高い在宅酸素患者や看取り患者まで減少していた。居宅患者に比較して慢性期の施設患者が相対的に増加しているわけでもなく、院長やスタッフはその理由が分からなかった。
毎月のように新規患者数は減少しており、このままの推移でいくと、更なる減少が避けられず、月1回訪問の低単価の患者ばかりが増えて、赤字経営に転じる可能性すらあった。
地域包括支援センターから勉強会の依頼があれば引き受け、担当者会議でも院長は良い顔をしており、評判は悪くないはず。在宅療養を必要とする高齢者の数は増加しているにも関わらず、なぜ自院のみが新患数が減少するのか理解が不能で、当社に解決の相談があった。

課題

■ "キャズムの谷"に見事に落ちた院長
開業1か月目~現時点までの毎月の全新患の患者背景を分析。患者年齢・疾患・保険区分・前医情報・担当ケアマネ・訪問看護ステーション、紹介元、要介護度、過去カルテからあらゆる情報を集計し、その内訳を分析した。
すると、開業1年目は、まんべんなく地域のケアマネや総合病院、訪問看護ステーション等、様々な多職種から紹介が来ていたことが判った。新製品やサービスが上市した際、イノベーター理論が適用される。どのようなプロダクトでも、何事にも情報に敏感でまず初めにお試し利用をするクライアントをイノベーターと呼ぶ。新型iPhoneが新発売する度にアップルストアに行列を作るユーザーは、新型iPhoneの使い勝手や体験情報がないにもかかわらず高額なiPhoneを買いに行列を作る。この顧客層をイノベーターと呼ぶ。その後、イノベーターの利用体験に応じて、次いでアーリーアダプターが購買し、一定のシェアや評判を聞きつけて次いでアーリーマジョリティが購入にようやく飛びつく。しかし、ここに「キャズムの谷」(キャズム理論)が存在する。プロダクト価値やプロモーション戦略、何らかに高い価値がないプロダクトの場合、単なる「いっときの流行り」が終われば、価値がないプロダクトにはユーザーが定着せず、リターン(再購買)ユーザーも生まれない。この「キャズムの谷」に落ちることで、そのプロダクトはそれ以上売れることなく衰退していくという理論である。まさに、今回の在宅クリニックの場合、新規オープンの際に、「物珍しさ」でイノベーターが試食に訪れ、アーリーアダプターが次いで試食に訪れた。しかし、在宅クリニックに何らかの欠陥(または付加価値がない)があったことで、見事にキャズムの谷に落ち、その後、アーリーマジョリティやリターンユーザーにたどり着くことなく、衰退の一途を辿ったのである。
■ リターン顧客を失った事実が判明
では、一体何が原因で、在宅クリニックは、市場から評価を得なかったのか。
それは新規患者の背景情報を分析することで判明した。開業当初は、様々な多職種からまんべんなく紹介を受けたが、結局は、そのユーザーのニーズに合致した行動をとることができず、一度お試しできたユーザーを大切にすることが出来なかったのだ。具体的には、紹介が減少した後は、近隣の地域包括支援センターと、居宅介護支援事業所、または非常に遠方にある総合病院からしか紹介が来ていないことが判明した。開業当初は、近隣の数百床ある基幹病院を始め、困難例を抱える行政高齢障害支援課、有力な訪問看護ステーション等、様座な多職種から紹介があったが、それらはすべて、1~2回紹介があったのみでその後、紹介が途絶えている。
■ 地域市場の75%から見捨てられた事実
そこで、改めてこの商圏を構成する多職種を、事業種セグメント別、規模別、保有患者数、立地等に分けて分析をかけた。その結果、市場の75%を構成する大型事業所10件(近隣大型基幹病院・大規模訪問看護ステーション等)からの紹介が全く来ていないことが判った。市場を構成する75%からの紹介がなく、細々と経営している事業所からの紹介がたまに来るだけでは、在宅クリニックとして経営は成り立たないことは明白だった。
特に、在宅復帰する患者の多くは、基幹病院からの退院患者で構成されることが一般的である。理由として、要介護度が高い患者は、高齢者であり、高齢者の多くは慢性疾患や骨折、がん等で入院する機会が多く、また例えば7:1看護度の基幹病院の場合、在宅復帰率が75%であり、退院患者の多くは否応でも在宅医療に移さなければならない。従って、総合病院から在宅クリニックに患者が紹介されてくることは、いわば当たり前なのである。つまり、  
在宅クリニックは、特定の大型施設と契約などをしていない限りは、市場の大半のシェアを占める基幹病院を押さえることは必須テーマなのである。
■ 院長の根拠なき市場分析が失策の原因
ではなぜ、近隣の600床の7:1病院からの患者紹介が途絶えたのか。
院長にその理由を問うたところ、「あの病院は最近、空床が目立ち、緊急搬送も断るため、退院患者がそもそもいないのだろう。」と答えた。
しかし、それはほぼあり得ない。7:1病院は平均在院日数14日以下で、スピーディーに患者を受け入れ治療し退院させる、稼働率と回転率をひたすら上げることで経営が成り立つことから、空床になることは珍しい。また、その地域には7:1病院はその1軒しかないため、重度や急性期の疾患患者が地域にいないことはない。当然、基幹病院には、在宅復帰患者は毎日のように発生し、どこかの在宅クリニックや包括ケア病床や回復期リハ病院等に紹介されていくため、患者が存在しない。ということはあり得ない。
■ 定性的データから導いた真の敗因
そこで、基幹病院から退院した患者が一体どこに紹介されているのか、またなぜ自院が選択から外れるようになったのかを、調査することにした。
まず、クリニックを支える看護師と事務職員にヒアリング調査を行った。看護師や事務職員は院長の方針に従って仕事をするものだが、医療機関の場合、医師のヒエラルキーが効きすぎて職員の自発的モチベーションや主体性が生まれにくい傾向が強い。そのため、課題や解決策、そのヒントを職員が有していたとしても院長に進言しないことが多い。職員にヒアリングをしたところ、2つの定性的な情報が得られた。1つが、その基幹病院の退院支援室看護師は、仕事がいい加減であり、患者情報の詳細を与えないまま雑に患者を紹介してくること。もう一つは、その退院支援室看護師の対応に院長が不満を持っていること。
次に、無菌室を所有している訪問調剤薬局にヒアリング調査を実施した。なぜ、訪問調剤薬局なのか。地域には数多くの居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションが存在するが、対して訪問調剤薬局は数えるほどしか存在しないことが一般的である。また、無菌室を所有している薬局は、つまりは無菌調合が必要な輸液タイプの麻薬を取り扱うことが出来るがん末期対応型の訪問調剤薬局ということになり、それは経営者の在宅医療への知見が深いことを示し、また都心にでも地域に1・2軒しか存在しないため、地域の情報が一挙にその薬局に集まりやすいのである。ヒアリング調査をしたところ、最近2年間で2軒の在宅専門クリニックが新設され競争が激しくなっていることと、それら競合クリニックが頻回に病院にアプローチを掛けており、SOV(シェアオブボイス)が極めて高いことが判明した。また、基幹病院の退院支援室看護師が現在困っていることとして、退院時共同指導加算1を算定できるよう、必要条件を満たした退院前カンファレンスを開催しなくてはならないが、その調整プロセスが大変で、退院患者も多すぎることから担当業務がキャパシティオーバーに陥っていることでった。既に、退院調整担当者と、競合クリニックの関係性が定着している中で、自院ではどのような方法で患者紹介を受けることが出来るのか。

解決策

一度落ち込んだ患者を、再び、主要ターゲットを絞ぼり的確なソリューションを発揮することで回復させることは、在宅クリニック経営においてはありふれた場面であり、解決策は多数存在する。今回は、その中でも、最もシンプルな解決策である、病院連携室へのアプローチ施策で対応してみる。
■ ターゲットにメリットのあるソリューションとは?
 既に、退院調整担当者と、競合クリニックの関係性が定着している中で、自院も競合と全く同じ方法で、営業訪問回数を増やすだけでは、差別化にならない。また、それが退院支援室看護師のニーズでもない。キーマンである退院支援室看護師を崩すことが重要であり、キーマンのニーズを満たし、紹介先を自院に向ける手法を検討する必要がある。その手法として、まずは、基幹病院側が、「退院時共同指導加算1」を算定する上で必要条件である、退院前カンファレンスに多職種を3事業所以上参加させることに着目した。退院患者が連日のように発生し退院調整で多忙な中、退院前カンファレンスに3事業所を参加させることは実に面倒な業務である。忙しさのあまり仕事が雑になり、退院調整看護師自身が患者情報を十分に把握しないまま退院させている状況が生じていることからも、この看護師の業務を自院で肩代わり=アウトソーシングとして引き受けることは、看護師のウォンツを獲得することに直結するだけでなく、自院を紹介先に入れない限りその看護師の満足度が満たされない状況を作り出すことが出来る。具体的には、紹介先として病院から自院が指名された場合、自院にて訪問調剤薬局と訪問看護ステーション等を選択し、退院調整業務を引き受け、その負担を軽減させる。そして、カンファレンスには自院の責任の下に3事業所を出席させ、結果的に病院側に退院時共同指導加算1が算定できる状況を提供する。また、カンファレンスの前に、患者病床やナースステーションまで自院のMSWや看護師が訪問し、事前に患者や家族背景の情報等を収集しておく。これによって退院支援室看護師は、大幅な業務軽減が為され、自院以外に紹介した場合には、その副次的メリットが得られなくなることから、大きく紹介先の選択肢が変えられることになった。
■ 結果
 結果として、これまで自院の紹介率は月0例であったところ、毎月40名超の患者をコンスタントに獲得することが出来、且つ7:1病院から退院する患者の多くは在宅酸素やがん末期であるため患者単価も大幅に上昇、平均要介護度も上昇し、年間売上は1億円増加した。

事例

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日本ヘルスケアソリューションズ―JHS